CARDINALSHAFT

それは、名を失うほどの歳月を経て、今ではただ
「楽園」と呼ばれる、亡国の洋上に建造された人工島
その中枢に天を衝くかの如き勢いで聳える建造物の呼び名だった。

その建造目的、意義に関する詳細な記録は失われて久しく
それを語り継ぐ者も僅かであったが、幾重もの霞の向こう、
およそ自然とは言いがたく佇む巨塔の存在感に心惹かれるものは決して少なくは無かった。

それがかつての《模倣者》の産物である事は誰の目にも明らかで、
言い伝えられる楽園の再来を求め、それを崇めるもの達も少なからず居た。
しかし、彼等がそこに達する事は叶わなかった。


何故なら、それを頑なに阻むものが居たからだ。 CARDINALSHAFTへの接触を阻む、陶質と金属の複合した現存の根拠なき人形の群れ。 それこそが何時からか《PRAYER》と呼ばれる言葉無き守護者たちだった。 元来そういった《正体のまるで無いもの》を扱う事は 同じく正体のまるで無い組織《GRAVEYARD》の主たる仕事であった。 有象無象の《人でなし》《逸楽者》《目利き》の寄る縁、或いは彼等ならば《PRAYER》を退けるだろう。 或いはそれを理解する為の糸口を掴む切り口―― そう迂遠に表現しなくてはいけない程に幽かな望みではあったが、 それを託す価値があるとするならば、彼らの他に無いであろうと。 少なくとも今は…… 或いは、もう今となっては。
仮に、この機会が浮上する事が無かったとしても。 彼等の中にはそれに赴く理由があるもの達がいた。 『必然以上の、言うならば因縁めいた宿命に引かれた』 他者がそう強引に辻褄を合わせ納得しておく他無い程に、 そう、さも当然のように眼前の《それ》に挑む。 きっとその身の何処にも《それ》に疑問を抱く余地など持っては居ない。 彼等は常ながらそういう風にしか見えない、そんな輩の集団だった。 しかし彼らを阻む苦難は大方の予想を遥かに越え、その執行は困難を極めた。 二度試みられた接触は二度の失敗という極解り易い結果を返した。 ただし労力の程度を別にしておけば、それは毎度の事でもあった。 一度目は紛う事無き立派な惨敗であったが、それでも二度目に掴めたものは大きく、 そこから導き出された答えが後の流れを決定付けた。 あの巨塔に再稼動の兆候が見られる。 あれは過ぎし日の夢の遺骸などでは無く、未だ微睡の下に眼を閉じている。 そして恐らくは、これが因縁ありし《彼ら》にとって最後の機会だろうという事。 それが得られた答えだった。
それでも、それは特に語るべき事では無く。 ただ明確に、行くべき道が照らされたという事実でしかなく。 今また、三度。 同じ様にその時は来る。 死すべき定めを裏切って尚、疼く傷跡が何処かにある。 それが今でも記憶している。 仮初めの身を生たらしめる何よりも強い信号、赤々と燃える灯火、 その一切を。 彼等は遺言を執行する。 その灯が指し示すままに――